Profile
酒井 智也 TOMOYA SAKAI
ステートメント
酒井の陶芸作品における創作の動機は、「アイデンティティ」という普遍的でありながら個人的な感覚を探求することで人間存在の本質を理解しようする試みにある。アイデンティティとは、自我によって統合されたパーソナリティが,社会および文化とどのように相互に作用し合っているかを説明する概念であるが、その概念と密接な「記憶」をテーマに制作している。
彼は、人間の「人格」、そして「世界とはこういうものだという世界観」は、記憶から成り立つものと捉えており、記憶こそアイデンティティの複雑な形成過程における主要因と洞察する。作品を通してこれらの記憶を掘り下げ、人間存在の本質を理解しようとしているのだ。酒井の代表的なシリーズではこれまで、「個人、他者、時代、信仰、生命の記憶」を粘土とロクロ技法により、抽象的なイメージとして具現化してきた。
今日、テクノロジーや移動手段の発展によって情報の爆発的な広がりと世界における距離の圧縮が実現され、民族や人種、性別などダイバーシティ尊重の普及が加速し、現代人はかつて類を見ないほどの多様な文化や社会、他者との出会い、逆説的にアイデンティティの喪失という状況に陥っている。そのような時代背景の中、酒井の作品は、自身の記憶や経験がどのように世界に対する認識を形成しているのかを人々に考えさせる。
酒井は瞑想的にろくろを使い、刷り込まれたイメージを分解し再構築することで、まずは酒井個人の記憶を呼び起こし、無意識と意識、抽象と具象の狭間に存在する形を表現するRecollectionシリーズを生み出した。この探求は、各個人のアイデンティティと人間の知覚の本質を問い直し、再定義することを可能にしている。
また、人類全体のアイデンティティ形成の重要な要因である神や仏などの超越的な存在に対しても、同様のアプローチにより、古今東西の「神」のイメージを取り入れることで、記憶の形を強制的に神格化させた「記憶の守り神」とも呼べるSpiritというシリーズを生み出した。彼は、超越的な存在のイメージを個人がどのように解釈するかという実験的な表現方法により、集団的なアイデンティティや視点の多様性に光を当てる。
近年では、人類の中に眠る「原初の記憶」に着目したArchēシリーズを展開している。個人や社会的背景を超えて、人間という存在の奥底にある根源的な記憶に触れようとする試みである。粘土という堆積した生命の痕跡を素材に、立ち現れるかたちや感覚と向き合い、言葉以前の記憶を可視化する。文化や価値観といった後付けの記憶を脱ぎ捨て、人間を生命の一部として捉え直すことを目指している
酒井は作品を通して、複雑な人間社会への理解を深めることを目指している。私たちの違いや共通点を探求し、認めることによって、より調和的に共存する方法を見出すことができると考えている。彼の陶芸は、この対話のための媒体として機能し、鑑賞者に自分自身のアイデンティティと、それを形成してきた経験を振り返らせることで、自己存在の肯定を促す。酒井のアートは、長く形を保つことが可能な、土を焼くという陶の素材と技法によって、遥か遠い未来まで伝えられていく。
経歴
- 1989年
- 愛知県西尾市生まれ
- 2008年
- 自動車部品会社 入社(部品製造部門)
- 2011年
- 自動車部品会社 退職
- 2011年
- 名古屋芸術大学 美術学部美術学科 陶芸コース 入学
- 2015年
- 名古屋芸術大学 美術学部美術学科 陶芸コース 卒業
- 2015年
- 愛知県公立学校教員 美術教諭 採用
- 2017年
- 愛知県公立学校教員 美術教諭 退職
- 2017年
- 多治見市陶磁器意匠研究所 入所
- 2019年
- 多治見市陶磁器意匠研究所 修了
- 現在、愛知県瀬戸市にて工房を構える
- 個展
- 2025年
- 「Archē」丹青社エントランススペース、B-OWND gallery、東京
- 「記憶標本室 -In my palm-」日本橋三越本店、東京
- 「ART TAIPEI 2025 Solo presentation」B-OWND gallery、台湾
- 2024年
- 「What're U looking for?」介末gallery、中国
- 「SPIRIT POP -八百万のかたち-」阪急うめだ本店、福岡
- 「時をかける -Heritage-」gallery数寄、愛知
- 2023年
- 「明晰夢」水犀、東京
- 「SPIRIT POP」B-OWND gallery、東京
- 2022年
- 「Connection」ロイドワークスギャラリー、東京
- 「酒井智也 個展」creava gallery、石川
- 「ReCollection」spiral entrance、東京
- 2021年
- 「酒井智也展」gallery数寄、愛知
- 「リビングの未確認生命体」銀座蔦屋書店、東京
- 「作家展 酒井智也」新町ビル、岐阜
- 「Tomoya Sakai Exhibition」Trophée Macocotte, フランス
- 2020年
- 「Ceramics Solo Exhibition ◯」介末gallery、中国
- グループ展
- 2025年
- 「Timeless Retreat-未来社会の市中の山居」大阪・関西万博、大阪
- 「Tool or Art」B-OWND gallery 大阪・関西万博、大阪
- 「ブレイク前夜 in Yokohama」そごう美術館、横浜
- 「Fine Art Asia HongKong 2025」B-ownd gallery、香港
- 2024年
- 「SCOPE MIAMI BEACH 2024」B-ownd gallery、アメリカ
- 「MIZUSAI」KAOLIN gallery、ストックホルム
- 「無二 現代陶芸美術展」Touch Ceramics、香港
- 「ART FUTURE 2024」YIRI gallery、台湾
- 「ONE ART TAIPAI 2024」YIRI gallery、台湾
- 「NEXT2024」とうしん美濃陶芸美術館、岐阜
- 「Beautility: The Betweenness of Kogei」WHAT CAFE、東京
- 2023年
- 「Affordable Art Fair 2023」Shanghai Exhibition Centre、中国
- 「KOGEI Art Fair 金沢」creava gallery、金沢
- 「秋元雄史セレクション -ブレイク前夜-」ASTER gallery、金沢
- 「OBUJE-SEMIFUNCTIONAL FORM」backwoods gallery、オーストラリア
- 「ULSAN international art fair」FINORK、韓国
- 2022年
- 「ホモ・ファーベルの断片」愛知県陶磁美術館、愛知
- 「The Postmodern Child」釜山現代美術館、韓国
- 「ART TAIPEI」Taipei World Trade Center、YIRI ARTS、台湾
- 「ART is」WHAT CAFE、東京
- 「Hidden」YTFgallery、台湾
- 「isyoukenの造形」galleryVOICE、岐阜
- 「FREAK」YIRI ARTS、台湾
- 「Craft Trend Fair 2022」Coex Hall、韓国
- 2021年
- 「令和の東海陶芸展」ドルフィンアリーナ、愛知
- 「Craft Trend Fair 2021」Coex Hall、韓国
- 「art works NAGOYA」国際デザインセンター、愛知
- 「旅色 二人展」gallery佑、愛知
- 「SOIL,SURFACE,SKY」clustercraft、イギリス
- 「Paris Design Week2021」Boon Paris、フランス
- 「1000vases」super studio、フランス
- 「PLANETX Popup exhibition」plants of god、香港
- 「仮想世代陶芸」Oil by 美術手帖、東京
- 「Base in SETO, TAJIMI, TOKONAME after graduate at NUA」新世紀工芸館、愛知
- 2020年
- 「Tajimi to Tokyo」 Apartment hotel新宿、東京
- 「KOGEI Art Fair Kanazawa」ギャラリーヴォイス、Online Exhibition
- 「Paris Design Week2020」Boon Paris、フランス
- 「Emerging Talents Online Exhibition」DAIICHI ARTS gallery、アメリカ
- 「造景展」新町ビル4F、岐阜
- 「愛知の工芸2020」古川美術館、愛知
- 2019年
- 「日本陶作家 酒井智也 植木鉢展」Forest Round Round、香港
- 「やきものの現在 青き精神のカタチ展」gallery voice、岐阜
- 「TRANSHIP × PLANETX」TRANSHIP、東京
- 「酒井智也・松井宗太郎・平山悦郎」一色学びの館、愛知
- 「陶ism」横浜赤レンガ倉庫、神奈川
- 2017年
- 「デザインマルシェiki 2017」オアシス21、愛知
- 2016年
- 「瀧田家アートプロジェクト~トキヲムスブ~」常滑瀧田家、愛知
- 2015年
- 「名古屋芸術大学卒業制作展」矢田ギャラリー、愛知
- 「もうひとつの卒展」ギャラリー葵丘、愛知
- 2014年
- 「旧加藤邸アートプロジェクト2014」国指定有形文化財 加藤邸、愛知
- 2013年
- 「three people exhibition」ギャラリーIZUTO、愛知
- 「日本・香港・マカオ ヤングアーティスト交流展」ギャラリー共栄窯・澳門理工学院、愛知・マカオ
- 「名古屋芸術大学 美術学部選抜展」名古屋芸術大学b-gallery 、愛知
- 2012年
- 「旧加藤邸アートプロジェクト2012」国指定有形文化財 加藤邸、愛知
受賞歴
- 2025年
- 「愛知県芸術文化選奨」文化新人賞(愛知県)
- 「第6回金沢・世界工芸コンペティション」入選(21世紀美術館)
- 「第11回菊池ビエンナーレ」入選(智美術館)
- 2024年
- 「第13回国際陶磁器展美濃」銅賞(セラミックパークMINO)
- 「備前・現代陶芸ビエンナーレ」入選(備前焼伝統産業会館)
- 2023年
- 「現在形の陶芸 萩大賞展」入選 (山口県立萩美術館)
- 「第17回パラミタ陶芸大賞展」 選出 (パラミタ ミュージアム)
- 「第62回ファエンツァ国際陶芸展」入選 (ファエンツァ国際陶芸美術館)
- 2021年
- 「第12回国際陶磁器展美濃」銀賞(セラミックパークMINO)
- 「韓国国際陶磁ビエンナーレ2021」入選(韓国 利川世界陶磁センター)
- 「第9回菊池ビエンナーレ」入選(菊池寛実記念 智美術館)
- 「国際工芸アワードとやま」入選(富山県美術館)
- 2020年
- 「2020台湾国際陶磁ビエンナーレ」入選(新北市立鴬歌陶磁博物館)
- 「第13現代茶陶展」入選(土岐市文化プラザ)
- 2019年
- 「第4回金沢・世界工芸コンペティション」入選(金沢21世紀美術館)
- 「第8回そば猪口アート公募展」入選(安曇野高橋節郎記念美術館)
- 2018年
- 「やきものの現在 青き精神のカタチ展」岐阜放送局長賞(gallery VOICE)
- 「第115有田国際陶磁展」入選(佐賀県立九州陶磁文化館)
- 2017年
- 「第3金沢・世界工芸コンペティション」入選(金沢21世紀美術館)
- 2016年
- 「第38回日本新工芸展」彫刻の森美術館奨励賞(国立新美術館)
- 「第55回日本現代工芸展」入選(東京都美術館)
- 「第71回新匠工芸展」佳作賞(東京都美術館・京都市美術館)
- 2015年
- 「名古屋芸術大学 卒業制作展」優秀賞(ギャラリー矢田)
- 「第46回東海伝統工芸展」入選(岐阜高島屋・名古屋丸栄)
- 「西尾市美術展」愛知県教育委員会賞(西尾市文化会館)
- 2014年
- 「45回東海伝統工芸展」入選(名古屋丸栄)
- 「第10回国際陶磁器展美濃」入選(セラミックパークMINO)
- 「西尾市美術展」市教育委員会賞(西尾市文化会館)
- 2013年
- 「44回東海伝統工芸展」入選(名古屋丸栄)
- 「第16回クレイオブジェコンテスト」 審査員特別賞(岐阜県瑞浪市)
- 「西尾市美術展」市長賞(西尾市文化会館)
- 2012年
- 「西尾市美術展」市議会議員長賞(西尾市文化会館)
- コレクション
- 2023年
- ファエンツァ国際陶芸美術館, イタリア
- 2021年
- 名古屋芸術大学アラムナイコレクション、愛知
- 利川京畿陶磁美術館、韓国
- 2020年
- 新北市鶯歌陶磁博物館、台湾
- 2019年
- ささま国際陶芸祭コレクション、静岡